猫野詩梨帳

かわいいはかしこい

古典ギリシア語初歩メモ(17 課 〜 21 課)

↓の続き.このメモは練習問題の正答ではないので,必ず↓の記事を先に読むこと.

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17 課

17-1. あらゆる大地は著名な男たちの墓である.

17-2. 大きい都市は大きい荒野である.

17-3. あらゆるそれら(人々?)が黒い武器を持っていた.

εἶχον は ἔχω の impf.pl.3.

17-4. 恐ろしいものは多いが,人間より恐ろしいものは何もない.

17-5. 哀れな母親達が速い船の中にとどまるだろう.

μενοῦσιν は例によって μένω(とどまる,待つ)の fut.pl.3. (§81)

17-6. 腹の快楽は,あらゆるよいことの始めであり,そして根である.

定冠詞のついている ἡ ... ἡδονή が主語であると考えられる.

17-7. 当時,9人のアルコーンたちが政治事の多くのことを行っていた.

17-8. 文献学者カリマコスは,大きい本は大きい悪に等しいと言っていた.

[ἔλεγεν] (← λέγω) [τὸ μὲγα βιβλίον](対格) [εἶναι](不定詞)〜.ἴσος:(与格)に等しい

17-9. 人は各々の仕事において一方ではより劣っており,他方ではより優れている:人々の誰自身も全てに於いて賢くはない.

注にあるように ἔργον ἕκαστον, ἅπαντα はいずれも限定の対格(〜において)(§58).αὐτὸς をどう訳すかよくわからなかったが,属格 ἀνθρώπων が οὐδεὶς を修飾していることを表すためにあるのかもしれない.

17-10. というのも,主は六日間のうちに,天と大地と海と,それらの中のすべてのものをつくり,そして第七の日の間は休息したからである:それ故に,主は第七の日を祝福し,それを神聖なものとした.

πάντα τὰ ἐν αὐτοῖς は τὰ が名詞「もの」として用いられていると考え (練習3の注4),「それらの中の全てのもの(を)」とした.このように前置詞節が定冠詞によって「〜もの」と名詞化されることがよくあるらしい(例:τὰ ἐν τῇ νήσῳ 島の中にあるもの).κατέπαυσε は καταπαύω(やめさせる,終わらせる)の 1aor.sg.3 (κατα-έ-παυσε)(§35) で,注にあるようにここでは「休息した」の意.ἡμέρᾳ(マクロン省略)は期間の対格 (§46.1).

18 課

18-1. 恩人には感謝を返さねばならない.

18-2. 不運は人々をより賢くさせる.

σωφρονεστέρους は σώφρων の比較級の (m.?) pl.acc. である.語幹が -ον, -οο で終わるような形容詞など(-ων, -ον 型形容詞など → §75.3)は -εστερος, -εστατος のような語尾の比較級・最上級になるらしい.例:εὐδαίμων(語幹 εὐδαίμον-) → εὐδαιμονέστερος, εὐδαιμονέστατος

18-3. 我々は保証を与えることととることを欲している.

λαβεῖν (2aor.inf.) ← λαμβάνω

18-4. ソクラテスは履物なしで長い時間立った.

18-5. 父なるゼウスは,パトロクロスに一方をば与え,他方をば拒んだ.

注を参照すること.

18-6. アテーナイ人たちには,その場所で立って戦争をすることが良いと思われた.

δοκέω [与格] [不定詞]:〜には……と思われる,……が良いと思われる(非人称構文)

18-7. なぜ橋のそばで見張りたちを立ち上がらせなかったのか.

τί には「なぜ」の意味もあるので注意.ἀνεστήσατε (1aor.pl.2.) ← ἀνίστημι (ἀνα-ἵστημι)

18-8. 当時,ミーレートスを除いて,イオーニア地方の諸都市はキューロス側になびいた.

18-9. 私の考えでは,親しい男を裏切らない者は誰でも,人々の中でも神々の中でも大きな名誉を持つ.

ἔν τε ← ἐν τέ (§48.2, §50.6)

18-10-1. ある詩人は言う.神々は,動物たちを作った時,ある贈り物を各々に分配した.

διένειμαν (1aor.pl.3.; §35, §38.3) ← διανέμω

18-10-2. 雄牛たちには角を与えた.

18-10-3. 馬たちには蹄を,鳥たちには翼を,そして他の者たちには(それぞれ)そのようなとある他のものを(与えた).

18-10-4. 人間たちにはそのようなものを何も与えなかったが,男たちには男らしさを,女たちには美しさを与えた.

18-10-5. それ故に,女は全てのものの中で最も強い.

「〜の中で最も」の属格 (cf. 練習 13-9)

18-10-6. というのも,男たちは男らしさによって全てのものを征服するが,女たちは美しさによって男たちを征服するからである.

手段の与格(……で,……によって §14.3).νῑκῶσι (νῑκάουσι) ← νῑκάω(勝つ,征服する)

それ故に〜,というのも〜 (δὶα τοῦτο/ταῦτα...γάρ/ὅτι...) 構文は練習 15-10 でも出てきた.

19 課

19-1. 我々はただちに家へ立ち去る.

ἐπί + 属格 は「〜の上に」「〜の時に」などであるが,注にあるようにここでは ἐπ' οἴκου: 家へ.ἄπιμεν (pl.1.) ← ἄπειμι(立ち去る ἀπο-ειμι)

19-2. 君は魚を放たねばならぬ.

19-3. 唯一,時間(のみ)が正しい男を示す.

μόνος は χρόνος を修飾している.英語でも,形容詞 alone が名詞を修飾して「ただ〜のみが……」という(副詞のような)意味になることがあるので,それと同じようなものだと考えられる.Time alone reveals the just man.

19-4. 君はチーズを革袋の中へしまった.

ἀπέθηκας (2aor.sg.2.) ← ἀποτίθημι(片付ける,しまう)

19-5. 彼は若者たちに知恵の愛を鼓吹していた.

ἐνετίθει (impf.sg.3.) ← ἐντίθημι(中に入れる,鼓吹する)

19-6. すべての牛たちは川の中へ行っていた.

ᾖσαν (impf.pl.3.) ← εἶμι (§93)

19-7. ゆえに彼は手の中から剣を地面に落とした.

ἧκε (2aor.sg.3.) ← ἵημι (放つ,投げる,落とす §92)

19-8. よいものの中から悪いものをつくることは,悪いものの中からよいものをつくることより容易である.

θεῖναι (2aor.inf.) ← τίθημι (置く,つくる,制定する,……にする §92)

19-9. 父ピリッポスはここで 12 歳の子供を埋葬した.多くの希望ニーコテレースを(埋葬した).

πατὴρ = Φίλιππος, τὴν πολλὴν ἐλπίδα = Νῑκοτέλην. 注にあるように,ἀπέθηκε (2aor.sg.3.) ← ἀποτίθημι はここでは「埋葬した」の意.

19-10-1. クセルクセースがギリシアへ進軍していた時,スパルタ人はテルモピュライの中で入り口を見張っていた.

19-10-2. 戦いの前に,味方のある人が言った.「夷狄たちが矢を射かけるときはいつでも,その大量の矢が原因で太陽を隠してしまう.それほど多くのそれらの数が存在する.」

注にあるように,ἀφιῶσι は ἀφίημι の接続法 (subjunctive) 能動相現在3人称複数形で,ここでは現在の一般的な仮定「もし〜ならば……である」を表す (§116.2).ここでは ἐπήν を伴って,「〜のときはいつでも……である」と訳すことができる.

19-10-3. そしてディエーネケースという名のスパルタ人が言った.「おお,異邦人よ.君は我々にあらゆるよいことを告げる.というのも,もしメーディアー人たちが影の下に太陽を隠すならば,戦いは太陽の中ではないだろうからである.」

ὀνόματι は限定の与格と考え,「名前に於いてディエーネケースである」→「ディエーネケースという名の」と訳した.ἔσται (fut.sg.3. §138) ← εἰμί

原文によると,この「異邦人」=「味方のある人」はトラキス人(Τρηχίνιος, Τραχίνιος, Τραχίς)となっているようである.敵の夷狄(ペルシア人=メーディアー人)ではない.「戦いは太陽の中(下)ではない」とは,つまり日陰で戦えるということだが,「敵(ペルシア人)の撃ってくる矢が多い? いや結構結構,涼しい日陰で戦えるではないか」みたいな感じ?

20 課

20-1. 死から逃げている人々は,(死を)追っている.

限定詞としての分詞(§100)と考えた.φεύγω [対格(危険など)]から逃げる.

20-2. 心を一つにすることによって,我々は強くいられるであろう.

手段の分詞 (§101.4).μενοῦμεν は例によって μένω(とどまる,待つ)の fut.pl.1. (§81).ここでは形容詞 ἰσχῡροί(強い,激しい)を補語として「強いままでいる(だろう)」と訳した.

20-3. 学んだことを信頼せねばならない.

μαθοῦσιν (2aor.part.n.pl.dat.) ← μανθάνω(学ぶ;第二アオリスト ἔμαθον).分詞が名詞扱いされており (§100),「学んだこと」.アオリスト分詞なので「学ぶ」ではなく「学んだ」と過去形に訳した (§102).また,πιστεύω が与格をとることに注意.

20-4. 愛するものたちの怒りは少しの間(だけ)力がある.

φιλούντων は名詞扱いされた分詞 (§100).ὀλίγον χρόνον は期間の対格で,「少しの間(だけ)」(§46.1).

20-5. というのも,多くの生まれのよいものたちは悪い(下劣だ)からである.

分詞 ὄντες (§97) が名詞扱いされ,「〜であるものたち」.

20-6. 妻を娶らない男は悪いものを持たない.

20-7. キュプリス(アプロディーテー)はクニドスの中のキュプリス(の彫像)を見た時に言った,「ああ,ああ,プラークシテレースはどこで裸の私を見たのか.」

Κύπρις は単数主格がアクセントのない -ις に終わる子音幹名詞なので,単数対格が Κύπριν となる(§57.2).εἶπεν (2aor.sg.3.) ← λέγω(言う).ἰδοῦσα (2aor.part.f.sg.nom.) ← ἰδών (2aor.part.n.sg.nom.) ← εἶδον (2aor.sg.1.) ← ὁράω(見る)

20-8. 人間はあらゆるものの尺度である.存在する者たちの(尺度)は,存在するということであり,存在しない者たちの(尺度)は,存在しないということである.

ὄντων が複数属格であるため,名詞の属格「存在する者たちの」として χρημάτων と同じように μέτρον を修飾している(省略されている)と考え,このような訳にしてみた.一般には「人間は万物の尺度である.あるものについてはあるということの,あらぬものについてはあらぬということの.」などと訳されるようである.前半を引用する者は多いが,後半についてはみな良くわかっていないのか引用しない.私もよくわからないので,誰か解説してください.

20-9. ソークラテースは若者たちを堕落させ,都市の信じている神々ではなく他の新しい神霊たちを信じているので,不正を働いている(悪いことをしている)のだ,と彼は言う.

φησίν(← φημί)対格 + 不定詞 の構文 (§41).彼は,ソークラテース(対格)が不正を働いている(不定詞)と言っている.ちなみに,ここで「彼」とは,ソクラテスを告発した詩人のメレトス.διαφθείροντα, νομίζοντα は理由の分詞とした.これらの分詞の主語にあたる部分は Σωκράτη (m.sg.acc.) なので,分詞も性数格を一致させて m.sg.acc. となっている.θεοὺς οὓς ἡ πόλις νομίζει「都市の信じている神々」(οὓς は関係代名詞の m.pl.acc.).οὐ νομίζοντα, δὲ ... とあるので,この「都市の信じている神々」を信じずに,……を信じている,と訳した(最後に νομίζοντα が省略されていると考えてもよい).

20-10. 生きることは悪だと言った人に向かって,犬儒派ディオゲネースは言った,「生きること(が悪であるの)ではない,」「悪く生きること(が悪なの)だ.」

εἰπόντα (2aor.part.m.sg.acc.), εἶπεν (2aor.sg.3.) ← λέγω(言う).ここで εἰπόντα は名詞扱いされたアオリスト分詞で,「(〜と)言った人」と訳した.その人が言ったことの中身は対格+不定詞構文で κακὸν εἶναι τὸ ζῆν「生きることは悪である」.ζῆν (inf. この動詞は特別の母音融合を行う;練習14の単語リスト参照) ← ζάω(生きる).中性なのでわかりにくいが τὸ ζῆν も κακὸν も対格であると考えられる.

21 課

21-1. 私は,人は死すべきだ(死を免れない)ということを知っている.

分詞を用いた間接話法.注にあるように,οἶδα (2perf.sg.1.) は「(私は)知っている」.この動詞には現在形がなく,(第二)完了形が現在の意味で用いられる (§166).

21-2. もしぶどう酒がもはや存在しないのならば,キュプリス(アプロディーテー)は存在しない.

分詞 ὄντος (← εἰμί) の主語 οἴνου(ぶどう酒)は主文「キュプリスは存在しない」に現れていないため,独立的用法の分詞(属格)である.

原文はこの後ろに οὐδ᾽ ἄλλο τερπνὸν οὐδὲν ἀνθρώποις ἔτι「そして人々にとって他の楽しいものはもはや決して(存在しない)」と続く(τερπνὸν ← τερπνός 楽しい;οὐδ᾽...οὐδὲν は二重否定ではなく否定の強調,cf. 練習 13-5 の注).よって,ここの「キュプリス」とは愛や肉欲(の楽しみ)を示しているのかもしれない.

21-3. 彼はその時確かに,他のあらゆる者たちに知られずに涙を流していた.

λανθάνω [対格]に知られずに[分詞]する(§110.2 例文の2つめ)

21-4. スパルタ人の多くの軍隊がたまたまコリントス地峡まで進出したわけではなかった.

ここでは「少数の軍隊が(たまたま)進出した」という意味にとってよいと思われる.ἔτυχε (2aor.sg.3.) ← τυγχάνω (§110.2)

21-5. 彼らは,(ペリクレースが)彼らを(自分たちを)戦争するよう説得したという理由でペリクレースを責めていた.

ἐν αἰτίᾳ ἔχω(責める;マクロン省略),εἶχον (impf.sg.1., pl.3.) ← ἔχω.説得したのはペリクレースなので,πείσαντα (1aor.part.m.sg.acc.) (← πείθω 説得する) は Περικλέᾱ (m.sg.acc.) と性数格が一致している.σφᾶς は三人称代名詞の pl.acc. で「彼らを」だが,アッティカ方言の散文では三人称代名詞は間接再帰の場合のほかはあまり用いられない (§83.2).即ち間接再帰代名詞として用いられる.間接再帰代名詞はそれが用いられている文の主語と同じものを指す (§142.2) ため,ここでは文の主語の「(ペリクレースを責めていた)彼ら」=「(ペリクレースに説得された)彼ら」である.わかりやすくするために「彼らを」を「自分たちを」と訳しても良い.

21-6. 神が与えるならば,嫉妬は何の力をも持たず,与えないならば,苦労は何の力(価値)をも持たない.

独立的用法の分詞の属格 (§108.1)

21-7. (アキレウスは)後世の記憶の中へ(残る)ホメーロスの伝令を手に入れていたため,アレクサンドロス大王アキレウスを幸福であると考えた.

ἔτυχε (2aor.sg.3.) ← τυγχάνω [属格]と出くわす,手に入れる.アキレウスホメーロスの叙情詩「イーリアス」(主人公はアキレウス)によってその活躍が後世に残されているということ?

21-8. 多くの者たちが戦争の中で仲間や家の者を助けて傷を負って死に,そして健康な,助けなかった者たちは,(そう)せねばならなかったけれども,立ち去ったのか?

ἔλαβον (2aor.pl.3.) ← λαμβάνω(取る),ここでは(傷を)負う,という意味であると考えられる.ἀπέθανον (2aor.pl.3.) ← ἀποθνῄσκω(死ぬ).ἀπῆλθον (2aor.pl.3.) ← ἀπέρχομαι(立ち去る;変化は ἔρχομαι を参照).1つめの βοηθήσαντες (1aor.part.m.pl.nom.) は状況説明の分詞,2つめは名詞扱いされた分詞「(仲間や家のものを)助けなかった者たち」と考えた.δέον は注にあるように非人称動詞の δεῖ(ねばならぬ)の現在分詞である.δεῖ は普通不定詞をとるため,「立ち去らねばならぬ」とは考えにくいが,よくわからない.

21-9. キオス人と他の同盟者たちは,それらのことと,リューサンドロスを艦隊(の指揮者)に要求するということを(使節が)言うため,ラケダイモーンに使節を送った.

ἔπεμψαν (1aor.pl.3.) ← πέμπω(送る).ἐροῦντας (part.m.pl.acc.) ← ἐρέω(言う,の未来).ここでは目的を表す未来分詞 (§101.6) で,「言う」のは πρέσβεις (m.pl.acc. 使節) なので性数格がそれに一致している.言う内容は ταῦτα(n.pl.acc.) 「それらのこと」と,αἰτήσοντας (part.m.pl.acc. ← αἰτέω)「要求すること」(§110.3).要求している主語,すなわち「誰が」要求しているのかというと使節であり,リューサンドロスではない.これは分詞が m.pl.acc. で πρέσβεις (m.pl.acc.) と性数格が一致していることからわかる.よって,リューサンドロスを艦隊の指揮者として求めているということになる(注も参照).

21-10. ゼウスとアポローンは弓術について争っていた.アポローンが弓矢を張って放った時,ゼウスはアポローンが弓で射った(その距離)ほど大きいぶんを1跨ぎで歩いた.

ἤριζον (impf.pl.3.) ← ἐρίζω(争う).τόξον (n. 弓;何故か語彙集にない?).ἀφέντος (2aor.part.m.sg.gen.) ← ἀφίημι(放つ),この変化については ἵημι の第二アオリスト分詞 εἵς, εἷσα, ἕν の変化を参照 (§106, §105).διέβη は注にあるように διαβαίνω(渡る)の 2aor.pl.3.,この動詞は μι 動詞型の変化をする第二アオリストを持つ (§187).