古典ギリシア語初歩メモ
最近,水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店,1990) をテキストとして古典ギリシア語について勉強している.この本には練習問題がついているが,解答がない.
インターネットで検索すると解答を作成しているブログなどがあるのだが,11 課までしか公開されていないようだ.そこで,同じく古典ギリシア語を勉強している者たちのために,12 課以降の「私の」解答をここにメモしておこうと思う.
ここに記すのは模範解答ではないことに注意されたい.私の古典ギリシア語力はたったの5である.しかし,12 課まで絶望せず*1学んできた者たちならば,この「初学者の解答の発表」の扱いについて,ここで詳しく説明せずともわかるであろう.明らかな間違いなどあれば(あると思うので)指摘してもらえると助かる.
なおここに記すのは主に日本語訳(のみ)である.格や文の構造をどう解釈したかわかりやすいよう,なるべく「直訳」している(気がする).個人的にわかりにくかった部分については,「どう読んだか」を注釈としてつけている.
環境によってはマクロン(長音記号)と共に気息記号やアクセントがついた文字を表示できない可能性があるため,マクロンと共に気息記号やアクセントがつく場合はマクロンを省略し,その旨記す.
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- 32 課 〜 36 課:古典ギリシア語初歩メモ(32 課 〜 36 課) - 猫野詩梨帳
略語
略語 | 意味 | 訳 |
---|---|---|
m. | masculīnum | 男性 |
f. | fēminīnum | 女性 |
n. | neutrum | 中性 |
sg. | singulāris | 単数 |
du. | duālis | 双数,両数 |
pl. | plūrālis | 複数 |
nom. | nōminātīvus | 主格 |
gen. | genitīvus, genetīvus | 属格 |
dat. | datīvus | 与格 |
acc. | accūsātīvus | 対格 |
voc. | vocātīvus | 呼格 |
pr. | praesēns | 現在 |
fut. | futūrum | 未来 |
1fut. | I. futūrum | (受動相)第1未来 |
2fut. | II. futūrum | (受動相)第2未来 |
impf. | imperfectum | 未完了過去 |
1aor. | I. aoristum | 第1アオリスト |
2aor. | II. aoristum | 第2アオリスト |
perf. | perfectum | 完了 |
1perf. | I. perfectum | 第1完了 |
2perf. | II. perfectum | 第2完了 |
plup. | plūsquamperfectum | 過去完了 |
1plup. | I. plūsquamperfectum | 第1過去完了 |
2plup. | II. plūsquamperfectum | 第2過去完了 |
fut.perf. | futūrum perfectum | 未来完了 |
ind. | indicātīvus | 直説法 |
subj. | subiunctīvus | 接続法 |
opt. | optātīvus | 希求法 |
imp. | imperātīvus | 命令法 |
inf. | īnfīnītīvus | 不定詞 |
part. | participium | 分詞 |
act. | āctīvum | 能動相 |
mid. | medium | 中動相 |
pass. | passīvum | 受動相 |
mp. | medium / passīvum | 中・受動相 |
Ciesko | Martin CIESKO『古典ギリシア語文典』(白水社,2016) |
12 課
12-1. 友人とは何か? 他の私(自身)である.
τί (n) は「何」,τίς (m, f) は「誰」
12-2. 他のものは他の人々を喜ばす.
ἀρέσκω は与格をとる.コメントで指摘のあるとおり,中性複数の主語は単数の動詞で受けるのが普通(第3課練習問題注釈 8).ἄλλα は中性なので物,ἄλλος は男性なので人(者).
12-3. あるものはそれを言い,あるものはそれを行った.
12-4. アポローンは彼に,どの神々に犠牲をささげねばならぬのか答えた.
αὐτῷ は3人称代名詞の与格として用いられている.また οἷς はここでは疑問代名詞として用いられていると考えられる(θεοῖς οἷς: どの神々に)(§64.3).ἔδει は未完了過去だが,開始されようとしている動作または状態を述べているものと考えられる (§40).
12-5. 同じ原因の中から常に同じ結果が生じるということはない.
ταὐτά = τὰ αὐτά
12-6. この若者たちは,あの女を信用することを欲しない(信用したがらない).
コメントで指摘のあるとおり,οἱ νέοι は「若者たち」であると考えられる.
12-7. それらの後,詩人自身があの奴隷に,竪琴を彼女の家の中へ運ぶことを命じた.
κελεύω :[対格(もしくは与)] に [不定詞] することを命じる
12-8. 我々の各々(の人)には,賢いところに於いて良く,無学であるところに於いて悪い.
限定の対格 (§58).ταῦτα(それに於いて)… ἅπερ(のところ) σοφός((我々の各々の人が)賢い) -> (我々の各々の人が)賢いところに於いては. 主語は「我々の各々の人」(Each of us) であり,「人」が省略されているか,ἕκαστος が代名詞的に使われているかのどちらかだと考えられる.
12-9. 親自身の子どもたちには,しばしば,(親と)同じ性格はない.
所有の与格 (§55)
12-10-1. ドラコーンは,いつかのアテーナイ市の市民であって,アテーナイ人たちが,彼が新しい法を書くことを欲していたほどに,賢く正しかった.
ἤθελον は ἐθέλω(欲する)の未完了過去.不定詞 γράφειν(書く)の主語は αὐτὸν(不定詞の主語は対格 → §41)
12-10-2. しかし彼が書いた法は耐え難いものであった.
関係代名詞 οὓς は,性数は先行詞 οἱ νόμοι に一致し,格は ἔγραψεν (γράφω の 1aor.sg.3.) の要求する対格となる (§65)
12-10-3. というのも,あの法の中には1つの罰(として),死があったからである.
12-10-4. ゆえにアテーナイ人達は,ドラコーンの法は人のものではなく竜(ドラゴン)のものだと言っていた.
13 課
13-1. 恋(愛)より甘いものはない.
οὐδὲν (n) はより甘い (n),恋(m, 属格 → §73.2)より.οὐδὲίς, οὐδὲμία, οὐδὲν(m f 誰も……ない,n 何も……ない)
13-2. ピンダロスは,水は最良であると言う.
ピンダロス says that…
13-3. しかし技術は必然よりずっと弱い.
§74 で ὀλίῳ(← ὀλίγος 少ない)が「わずかだけ」の意で用いられていることから考えると,μακρῷ (← μακρός 長い) は「かなり,ずっと,たいそう」くらいの意味であると思われる.
13-4. 犬は男たちに対して最も親しい.
13-5. そして財産が友人より美しいということも決してない.
注にあるように,οὐκ…οὐδὲν は単に否定を強めているだけ.
13-6. 父親より母親の方が 10 年(歳)若いと彼は言っていた.
ἔφη 対格 不定詞 (§41)
13-7. 我々は,自分の(過失)より,他人の過失を,より容易に目の中に持つ.
ῥᾷον は副詞の比較級であると考えられる (§72)
13-8. 都市は,できるだけ最も速く,最も良く,最も美しい国制をとることによって,最も幸福に時をすごすだろう.
τάχιστα(最も速く), ἄριστα(最もよく), εὐδαιμονέστατα(最も幸福に) はすべて副詞の最上級と考えられる.ὡς は最上級とともに「できるだけ……」.λαβοῦσα は注にあるように λαμβάνω(取る)の第2アオリスト分詞であり,ここでは手段「……することによって」と解釈した (§101.4).
13-9. アポローンの神託はデルポイの中にあった:ソポクレースは賢く,さらにエウリーピデースはより賢く,さらにソークラテースは全ての男たちの中で最も賢い.
属格には「〜のうちの,〜の中の」という用法があり(部分の属格),最上級と共にも使われる (Ciesko 9§3.2).
13-10-1. プロメーテウスは最初に確かに人間たちを,そして野獣たちを作った.
13-10-2. 次に,(人間より)より多くの野獣たちが存在することを見たため,あるものたちを人間たち(の中)へ変えた.
ὁρῶν は注にあるように「見る」の現在分詞であり,ここでは理由「……なので」と解釈した (§101.2).分詞の時間は文脈によって判断されるとある (§102) ので,ここでは「変えた」ことより「見る」ことが前であると考えた(大過去的な;日本語では単に「見たため」となるが).ἤλλαξε は ἀλλάττω, -ξω(変える,交換する)の 1aor.sg.3.
13-10-3. そしてそれゆえに,(一方)人間(たち)の身体を持つが,(他方)野獣(たち)の魂を持つものたちがいまだ存在している.
διὰ δὲ τοῦτο ἔτι εἰσὶν(そしてそれゆえに,いまだ「それら」が存在している)οἳ(関係代名詞:「それら」とはどういうものか)…
14 課
14-1. 時間は明らかでないことを明らかにする.
14-2. 一羽の燕が春を作るわけではない.
14-3. 神々が愛する者は若くして死ぬ.
注にあるとおり,関係代名詞 ὅν の先行詞が省略されている.
14-4. というのも彼は最良であると思われること(を欲しているの)ではなく,最良であることを欲しているからである.
οὐ…ἀλλά… (not…but…)(第4課練習問題注釈 8)
14-5. ローマ人たちはシケリアーをローマの蔵と呼んでいた.
καλέω A B(A を B と呼ぶ)ではおそらく A も B も対格をとる.
14-6. ネストールの舌から,言葉がちょうど蜜のように流れ出ていた.
ἀπορρέω(流れ出る)の未完了過去 (sg.1.) は ἀπέρρεον (ἀπο-ε-ρρέω)(§34.1, §35), 3人称で ἀπέρρει (ἀπέρρε-ε)
14-7. よい友人が一人でさえもない者は,生きる価値がない.
全文の主語は不定関係代名詞 ὅτῳ(……する者は誰でも),所有の与格 (§55).
e.g. αὐτῷ εἷς φίλος ἔστιν. 彼には1人の友人がいる.
14-8. 不正を働くこととは,他の者達よりより多く持つことを求めることである.
注にあるように,τοῦτό = τὸ 以下.τῶν ἄλλων(他の者達より)は比較の属格 (§73.2).τὸ ζητεῖν ἔχειν 持つことを求めること ← ζητεῖ ἔχειν 彼は持つことを求める(対格(省略)+不定詞の構文と考えた)の不定詞を名詞化.また πλέον(← πολύς)は ἔχειν にかかる副詞と考えた.
14-9. 人間たちにとって,どんな危険が,冬の(嵐の)季節に海を船で行くことより大きいか.
τί であれば「〜より大きい危険は何か」となると考えられるが,τίς なので,形容詞的に τίς κίνδῡνος(どの危険が)とした.
14-10-1. あるアテーナイ人がいつかペリクレースに尋ねた,「おお,ペリクレースよ,」
τὶς は形容詞的に「ある〜が」としても用いられる (§53).ἠρώτησε は ἐρωτάω(尋ねる;[対格] に尋ねる)の 1aor.sg.3. (§34.2, §38.2)
14-10-2. 彼は言った,「支配者が心の中に持たねばならぬ第一のものは何か?」
δεῖ + 対格 (τὸν ἄρχοντα) + 不定詞 (ἔχειν):支配者は持たねばならぬ → ὃ δεῖ τὸν ἄρχοντα ἔχειν 支配者が持たねばならないところのもの(ὃ は関係代名詞 n.sg.acc.)
14-10-3. そして(ペリクレースが)言った,「人間であることだ.」
自分は人間以上の存在などではなく人間であるのだという心構え?
14-10-4. 「それでは第二のものは何か?」
14-10-5. 「よく,そして正しく支配しなければならぬということだ.」
14-10-6. そして最後にその男は言った,「第三のものは何か?」
14-10-7. そしてペリクレースは言った,「常に(彼が)支配するだろうということはないということだ.」
15 課
15-1. 私はアルパでありオメガ,始めであり終わりである.
ἄλφα (n. アルパ), Ὦ μέγα (n. オメガ)
15-2. おおソクラテスよ,君より賢いものは誰もいない.
比較の属格 (§73.2).
15-3. (一方)それは私を喜ばし,(他方)あれは君を喜ばす.
15-4. というのも我々の心(理性)は各々の中で神であるからである.
15-5. 我々にとって涙は苦痛や悪いものの薬である.
κακῶν は中性名詞の複数属格として扱われていると考えられる(いろいろの悪いものの).すると形容詞ではなく名詞の属格なので性・数・格を一致させる必要がない.
15-6. 私は君にそれを与える,君は私の母を尊重しているから.
15-7. 誰が君たちとともにあの国の中にとどまるだろうか.
μενοῦσιν は μένω(とどまる)の fut.pl.3. (μεν-έσ-ουσιν,§81).もし現在形ならば μένουσιν となる.融合未来は現在形と同じ形,似た形になることがあるので注意したい.また,注にあるように μεθ' ὑμῶν ← μετὰ ὑμῶν(マクロン省略)
15-8. 私に向けた君の手紙は何と長かったことか.
二番目の ἡ が何を表しているのか不明.
15-9. 君たちは,君たちの父たちから取った徳を投げ捨てるだろうか.
ἐλάβετε は λαμβάνω(取る)の 2aor.pl.2.(付録 E 参照).ところで,疑問の小辞 ἆρα(……か?)などが無くとも文末に疑問符 (;) があれば疑問文であるようだ(古くはそもそも疑問符や句読点などを使用していなかったのだが).
15-10-1. 敵共を征服したある兵士たちがラッパ手を捕まえた.
ἔλαβoν は λαμβάνω(取る)の 2aor.pl.3.(付録 E 参照).
15-10-2. そして彼らがまさに彼(ラッパ手)を殺そうとしていた時に彼が言った,「おお,男たちよ,」
15-10-3. 「私を殺すな.というのも私は君たちの誰をも殺していないからである.あなたがたは私がそのラッパ以外に何の道具(武器)も持っていないことを見ている.」
注にあるように,μή と接続法アオリストで禁止を表す (§114.3).οὐδέν は形容詞的に使われていると考えられる:οὐδὲν ὅπλον(何の道具をも……ない).ὁρᾶτε は命令法ともとれるかもしれない(私がラッパ以外に何の道具も持っていないことを見よ)(§178).
15-10-4. しかし彼らは彼(ラッパ手)に向かって言った,「それ故に,君は死ぬのが正しい.というのも,(一方)君自身は戦争をしていないが,(他方)君は他の者達を戦いへと鼓舞しているからである.」
ἀποθανεῖν は ἀποθνῄσκω(死ぬ)の第二アオリスト ἀπέθανον の不定詞(不定詞では加音をとらないため ἀπο- であることに注意)(§44).第二アオリスト不定詞は一回的行為を表す(死ぬのは一回なので)(練習6の注8を参照).
16 課
16-1. 経験のないものたちにとって戦争は甘い.
16-2. その場所に甘い水の泉がある.
16-3. 彼は彼にそれらが真実であるかどうか尋ねる.
ἐρωτάω: [対格] に尋ねる
16-4. というのも好機は人々から(すると)短い尺度を持つからである.
16-5. 真実から偽りのものたちを分けることはしばしば困難である.
注にあるように,分離の属格.
16-6. 詩人ヘーシオドスは,険しい道を徳の道と呼んだ.
最初の Ἡσίοδος は ὁ ποιητὴς と同格であると考えられる.次の τρᾱχεῖαν は f.acc. なので,ὁδόν が省略されている,即ち ἐκάλει [τὴν τρᾱχεῖαν ὁδόν] [τὴς ἀρετῆς τὴν ὁδόν]([険しい道]を[徳の道]と呼んだ) と考えた.καλέω A(対格) B(対格): A を B と呼ぶ
16-7. 教育は(一方)幸運な者達にとっては飾りであるが,(他方)不幸な者達にとっては避難所である.
16-8. (一方)自然は学問なしには盲目にとどまるが,(他方)学問は自然なしには不完全にとどまる.
16-9. 足は速いが,風はより速く,心は最も速い.
…μέν…δέ…δέ は …μέν…δέ(一方は……他方は……)の3者版だと考えられる.θάττους(マクロン省略)は ταχύς(速い)の比較級の m.pl.nom の別形であることに注意(§75.1)
16-10. 人生は短く,技術は長く,好機は速く,試みは倒れやすく,判断は困難である.
*1:http://shindanmaker.com/401316 昔3回くらい出席して諦めた